県広報コンクールの開催
〈審査委員〉
中日新聞社静岡総局長 五十住 和 樹
リアリスティックデザイン代表 松 永 直 人
静岡県分野別広報アドバイザー 北 村 秀 実
◇広報紙は重要な町の情報伝達ツール。「何としても読んでもらう」工夫が不可欠だ。ネットも含め情報があふれる今の社会で、これまでのような「常識的」な編集やレイアウトでは、表紙をチラ見しただけで捨てられてしまう危険が高い。 そんな工夫が表紙からあふれたのが函南町だった。パッと見て分かる、という情報伝達の基本に加え、チラ見読者の目を引き、中身を読ませる力がある。その中身も写真や図の多用、短い文章、余裕を持ったレイアウトで飽きさせることがない。役所の文書だと特定商品名が写るものを排除しがちだが、表紙ではそれを乗り越えて分かりやすさを優先。「お知らせ」「募集」などの短信でもスペースを取っているので、とても見やすい。 表紙の写真であしらった特集記事などの「一番読ませたいコンテンツ」は、表紙裏、つまり2ページから続けて載せた方がよい。読者にページを探させる努力が必要な構成では、面倒がってその先を読んでもらえない可能性もある。編集者の立場や都合ではなく、読む方の感覚でつくっていると思わせる広報紙は成功している。どんな印刷物でも老眼で細かい字が読みにくい高齢者、難しい言葉はよく分からない中高生などでも、手にとって読んでもらいたい。だからこそ写真やイラスト、作図などのビジュアルを重視し、適切な短い言葉を重ねた文章など、「読者ファースト」の視点でつくってもらいたい。そうでないと、特に無料の冊子は読まずに捨てられてしまう。 「特集」は広報のステータスを引き上げる重要な読み物。思わず目を通してしまう特集や、「これは記念に取っておきたい」と思わせる内容があれば、他のページもめくってもらえる、すなわち町側が伝えたい中身をより多く読んでもらえる原動力になる。特集に力を入れている自治体からはその意気込みが伝わってきていい。 より多くの情報を入れたい、というのが町当局(編集側)の思いだが、せっかく詰め込んでも読んでもらえなければ意味がない。情報は精選し、モノクロ紙面でもイラストや見出しでアイキャッチを作り、短く簡潔な文章で読者に負担をかけない工夫がほしい。読者あっての広報紙だという原点を思い出しながら、つくっていただきたいと切に願います。 ◇昨年の「市町広報紙部門」に引き続き、今年は「町広報紙部門」を例年通り、内容的には似てしまうのはいたしかたない中で個性的で目を惹くデザインを評価の基準に審査させていただきました。 8紙を見てまず感じたのは全体に更なるデザインのスキルアップとコンテンツの差別化でしょうか。どうしても似通った内容になるのが否めない中、それぞれの創意工夫が見られました。 それもこういったコンペティション形式の審査会に刺激された結果だと思うと携わっている意義を感じます。 特に目を惹いたのは吉田町と川根本町。みんなに楽しんでみてもらおうという作り手側の気持ちと自らの楽しみが伝わってきました。 毎回書きますが、広報紙の読者は他に類をみない幅広い年齢層であり、できるだけ多くの層に内容を伝える必要があります。正確に伝えることも重要ですがまずは見て、読んでもらうための手法であるデザインを誰もが共感する「きれい」「楽しい」と思うカタチを個性的に表現しながら作り込んでいって欲しいと思います。 ◇平成27年度に続いてこのたびの「町広報紙部門」の審査を担当させていただきました。2年前と比べて全体的に、完成度の高さ、企画力、文章力、デザインレイアウトの練達、デジタルコンテンツとの連動など、手ごたえが感じられる作品揃いという印象を持ちました。 例えば、「広報よしだ」は、「夢」という普遍性あるテーマに、独自の掘り下げ目線から、夢をかなえた人のプロセスや思いを汲む取材に邁進。夢を忘れてしまって久しい大人たちにも気づきを与えてくれる、豊かな表現力をもった出来栄えでした。 「広報かわねほんちょう」では、住民主導の地域での取り組みが丁寧にレポートされているほか、ダムカレー、サプライズトリップレターなど地域資源を活かした視覚的にも楽しい紙面で、読み手を飽きさせない仕上がりが印象的でした。 今回いくつものエントリーで、特集テーマに、地域の未来の担い手となる「次世代」との取組みがとりあげられていたことも印象深く拝見しました。「次世代」のために、地元の町として提供できる格別な機会の提供―役場や地域の事業所での職業体験、子ども議会、海外短期語学研修など――は、町の未来とその担い手を育てる尊い取組みといえましょう。 これらを前向きに広報していくことにより、多様な住民の共通の関心事をつくり、地域への希望や愛着の醸成につながると期待いたしております。 |