平成21年度
広報紙(市)全体的な寸評
出来、不出来をおいて全体を読んでやっぱり広報紙は自治体の「顔」に違いないとつくづく感ずる。すべての自治体の全体像を承知しているわけではないが、経験の範囲内でいえば、大まかな自治体の表紙は大まかだし、丁寧な自治体の表紙は丁寧だ。
これほどたくさんの広報紙を並べて読んだことはないが、1点豪華、特集にこれほどの力が入るように進化しているのは正直にいって驚きだった。多方面からの立体的な広報は一般メディアに並ぶ水準のものもあるように感じた。
中でも島田市と菊川市が期せずして同じ、地域医療を特集したことは住民も、自治体も、公的な医療機関も、いかに崩壊寸前の現状に対して深い危機感を抱いているかをよく示している。さすがにもう放っておけないという切迫感を感ずる。
2紙は丁寧さにおいて甲乙つけがたい。ただ、全体の構成の幅広さ、素材の多彩さ、情報開示の姿勢、自己診断の率直さから、菊川市に軍配を上げた。あえて順位をつけるのが忍びないほどであり、正直言って最後まで迷った。
広報紙が「憶病」であることはやむを得ない。多くの納税者の目に触れることを考えるとついつい、あたりさわりのないテーマと表現に落ち着くからだ。しかし、さすがに情報公開の時代である。予算や職員給与の情報を果敢に出していこうとする姿勢がはっきりしてきていることにも驚いた。
広報紙は自治体の「耳」であり、「口」だろう。住民の関心が行政の中身に向かっている以上、一つ一つの事業を正直に丁寧に説明を尽くす責任があるし、不満や苦情の声に耳を澄まし、紙面に反映させることを求められている。
自治体の体力に違いがあるし、大小によって広報紙にさく手間と資金に差があるのは仕方がない。しかし、一部の先行例を読みながらもっともっと情報公開の流れが強まってほしいし、広報紙がその舞台になることに期待したい。
・それぞれの市で特集テーマの設定、デザイン・レイアウトに工夫が見られ、全体的にはレベルが向上していると言えよう。
・特集テーマについては、医療や防災を取り上げた市が多く、特に地域医療が直面する課題について市民への問題提起をおこなう広報活動は、市政における広報活動の意義に叶うものであり、評価できる。
・他方、職員給与や勤務状況などの公開に大量の紙幅を費している例が少なくない。こうした情報公開はコンパクトに掲載できるので、多くのページを使用するような慣行は再検討したほうが良い。
・広報コンクールを意識して作っている作品が多々あった。出品作品と参考作品とのレベルがあきらかに違い、各市のコンクールへの意気込みが伝わってくる。いつも、このくらいの気持ちで製作をしてほしいものだ。
・医療特集が島田市・伊豆市・伊豆の国市・菊川市、町内会の存亡特集が伊東市・富士市で、市の抱える問題点が浮き彫りになっている。問題を市民に投げかけるのも広報紙の役割。わかりやすく・ていねいに問題提起をしてほしい。
・丁寧語の「お」「ご」「いただく」をつかいすぎている。あまり丁寧だと逆にバカにされていると感じる市民もでるのでは。病院で「患者様」と言われるのと同じ。
・担当者が、作っていて楽しい、出来上がったものを見て楽しいと感じているか、ということが問題。作り手が楽しと思わないものは、読まされる市民だって楽しくは、ない。
・このコンクールの審査をするにあたって、数市の知人に広報紙への感想を聞いてみた。「いい」という人がいた。しかし、「町内会で廻すと、いらないという人がかなりいる」という市、「配布されるが、読まない」という市も。読まれない広報誌が作られている。ゴミ箱行きではない、読まれるための広報誌作りを。
・上から物申す式の広報紙が多い。一方通行では、市民はどこにいるのだろう。掛川市がモニターから聞いた広報紙の感想を特集していて、意見を次号から生かしていきたいとしている。顔の見えないアンケートではなく、生の声を直に聞いてみるといい。「直の声」は作り手にとって薬となるはず。
・紙面作りのさい、いつも通りでいい・昨年通りでいいと、つい「楽」な方法をとる。しかし、それは市民からみれば怠慢以外のなにものでもない。昨年とは違うものを作ってやろうとの気構えが大切で、そこからは、ゴミ箱直行の読まれない広報紙は生まれてこない。難しいことではない、ちょっと「変えてやろう」と違う視点を持てばいい。
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