県広報コンクールの開催
応募してきた市広報紙の多くが、特集記事のテーマ設定、切り口、デザイン・レイアウトに工夫がみられ、かなりレベルは高かったように思われます。中には、一般販売されている雑誌と見間違えるくらいの美しいデザインや、よく練り上げられた紙面構成の広報紙もあり、特に「広報しまだ」(島田市)の里親制度を考える特集は秀逸でした。 広報紙は、その内容と印象によって市に対するイメージや市政への理解度を左右するといっても過言ではありません。広報紙制作にかけられる予算と人員は、自治体ごとに異なるでしょうが、市民の市政に対する理解と協力を深めてもらうには、広報紙の充実は欠かせないと思います。斬新なテーマ設定や切り口、読みやすい文章と美しいレイアウトで、市民に読みたいと思わせる、親しみやすい広報紙づくりを、これからも進めていっていただければと願っています。 総合的な印象としては、2013年度の応募作品は、内容がとても充実していたので、それらのなかから強く印象に残ったものの特徴などを、ランダムに記してみたい。机上の理屈や観念論よりも具体的事例の紹介のほうが、参考になると思われるからだ。 「広報しまだ」の「里親制度を考える」は、あたかも編集者の事なかれ主義を挑発するかのような、じつに意欲的な問題作だった。広報・編集というものが、社会をよくしていくための闘いであることを、鮮やかに証明した秀作と言ってもいいだろう。 逆に、市民生活に身近で、ありふれたテーマであるにもかかわらず心に残った秀作としては、「広報ふじ」の「学校給食」がある。きめ細かく取材したものを、実に読みやすくまとめており、子どもたちの笑顔の写真も素晴らしい。 身近なテーマということでは、「広報きくがわ」の「農に吹く新しい風」も、未来を見据えながら農業の今を考える視点が冴えていて、編集者の問題意識が光っていた。 そして、編集者の視点という点では、「広報まきのはら」の「次世代に響く鐘の音 大井海軍航空隊」が、戦争の悲惨さと平和の尊さを考えさせる、自治体広報紙としては珍しいテーマ。これは、編集者が8年越しで抱えていた企画を実現したもので、その生きる姿勢・思想の潔さは、深く心に響いた。 また、「広報いずのくに」は、静岡県第四次地震被害想定をテーマとしているが、単に県の情報を伝えるだけではなく、地元がどういう問題を抱えるかという視点で記事をまとめている点が、光っていた。 そしてもうひとつ、「広報すその」。この広報紙は、紙面のフォーマットが、非常に優れていて、各ページの記事内容が、一瞥してすぐにわかるようにデザインされていた。そのため読みやすさ・理解しやすさでは群を抜いていて、「伝える技術」の大切さを見事に例示していた。広報紙誌は「読まれてナンボ・理解されてナンボ」・・・この鉄則からばすれてしまうと、いかなる記事も、ただの紙クズに等しくなるからだ。 なお、表紙写真にも素敵な作品が少なくなかったが、とりわけ「広報あたみ」の絶妙なシヤッターチャンス、「広報ふじのみや」の変化に富んだ企画力は、強く印象に残った。 そして、終わった今は、「楽しかった」と言えるが、やっている最中は、ひたすら苦行でしかなかった。なぜ、苦行なのか。審査というものは、他人が編集した広報紙誌を批評するのではなく、自分が価値観の審査を受けていることになるからである。 今回はじめて「市広報紙部門」の審査員をさせていただきました。 市広報紙21作品に目を通しながらそのクオリティの高さに驚き、毎号制作にたずさわっていらっしゃる担当のみなさまのご苦労を思うと、頭が下がる思いでした。 広報紙はその地域に住まう老若男女すべての人々が地域の情報を得るためにあります。“すべての人に伝える”ということほど難しいことはありません。 わたしたち広告業界ではまず伝えたいターゲットを決めます。年代別、性別、趣向別、それぞれのターゲット層で興味の対象は異なります。目指すターゲット層を研究し興味を引く視覚効果をデザインで打ち出し心をつかみます。的を狭い範囲に絞り込むから効果も的確にでます。 しかし“すべての人に伝える”となると話しは異次元です。それも膨大な情報を正確に伝えなければならない役目の「市広報紙」ともなればどんなに大変なことか。さらに毎号、地域に合った話題、地域の課題解決、地域の取り組み紹介など特集を組み、取材し記事にしデザインする作業の連続。お疲れさまです。 デザインにおいては、情報を正確に伝える観点からあまり冒険的なことはできないかと思います。その中でも、余白を効果的に使ったり、タイトルを加工したり、興味を持たせ読んでもらうための工夫がどの広報紙にも見られました。 特集記事に関しては、どれをとってもその地域に暮らす人々に向けて考え抜かれたものが多く、地元愛を感じずにはいられませんでした。 これからもっと、地域に課される役割は大きなものになっていくのではないでしょうか。市広報紙は、様々な隔たりを取り除き、受け入れ合い助け合えるつながりを作っていくという地域の課題解決の一端を担っていると思います。 だからこそ、気持ちが伝わる紙面デザインを考え、若者も市政に興味を持つきっかけとなるような特集記事が必要なのだと思います。 そのような活動に少しでも希望と勇気を与えることができたなら幸いです。 静岡各地の地域性を比べながら楽しく拝見させていただき、また自分自身の住まう地域のことを考えるきっかけも与えていただきました。審査を通し、有意義な時間を過ごせたことに感謝いたします。ありがとうございました。 |