県広報コンクールの開催
〈審査委員〉
中日新聞、東京新聞静岡総局長 東 松 充 憲
リアリスティックデザイン代表 松 永 直 人
静岡大学教育学部准教授 川原崎 知 洋
◇広報紙の表紙を並べて見比べてみると、やはり市民の笑顔の写真-とりわけ子どもの笑顔が使われたもの(掛川、菊川、湖西)に魅力を感じた。静岡は子ども2人を抱くパパとママがあしらわれ、幸福感が伝わってきた(ただし、この家族が静岡市民なのかはどこを読んでも分からなかった)。少子・超高齢化時代の中で、子どもを安心して楽しく育てられることは、自治体にとって最優先事項だろう。 その一方で、超高齢化が進む地域社会で「特に重要な主役」であるはずの「高齢者」が表紙を飾っている作品が少なかったのは、どうしたわけだろう。真正面から扱ったのは御殿場のみ。熱海は「世代を引き継ぐ」という観点で、焼津は「地域防災力の一員」という観点で、高齢者が写り込んでいた。沼津は50枚近い人物カットを並べたが、高齢者だけがしっかり写っているカットは1枚だけだった。難しいのだとは思うが、「高齢者の健康で幸福な暮らし」を広報紙の1面写真で使って勝負してもらいたい。 表紙のタイトル(広報紙の名前)をローマ字にしているのが7作品もあったのは意外だった。視認性をよくするためのロゴとしてアルファベットを使いたい気持ちは分かる。しかし、できるだけ「ひらがな」か「漢字」、つまり日本語であってほしい。 右から左へ開くスタイルか、左から右へ開くスタイルか、縦書きと横書きが混在する体裁か、横書きだけの体裁か、などに差があった。個人的には、数字が多い部分は横書きがよいと思うのだが、右から左へ開くスタイルなのに横書き頁が続くというパターンは変な感じがした。 新聞編集者としての視点から見ると、独自の視点で有効に問題提起するような特集を組めているかどうかを評価基準の重点としてしまう傾向がある。その点では、伊東市の作品が突出して素晴らしいと思った。市職員や教員のサポートなしには完成しなかったと思われる。長い時間をかけてつくられた点、生徒らがインタビューに足を運んだ点(その写真が載っているのもよかった)などは立派だと思った。島田市の救急車利用の当否問題や、伊豆市の「地区指定をどう受け止めるか」問題も、考えさせられた。 半面、広報紙というものは、やはり、こまごまとした身近な生活情報の告知板的役割が重要だ。読みやすくするための工夫や、整理してコンパクトに掲載するための工夫が、それぞれに凝らされていたが、そうしたノウハウは、共有してマネしあってほしい。 ◇例年通り、内容的には似てしまうのはいたしかたない中で専門分野である広報紙としての写真のクオリティや配置、文字組み等のレイアウトなどの視覚部分でのスキルを重点に審査させていただきました。 22紙を見てまず感じたのは以前にもこの部門を審査させていただいたときに比べ、それぞれ各号ごとの特集記事的なパートに重きをおいてきていることでしょうか?切り口に応じて、各グラフィックパーツのデザインやレイアウトも工夫やアイデアが見られ、写真撮影や使い方にもスキルアップが見受けられました。 ここ数年の常連の高評価の市に追いつけ、追い越せの傾向の中、どちらの市も上手にまとまっていることからデザイン外注も多くなってきていると感じます。審査なので上記の基準から優劣をつけますが、広報担当の方々も外注に丸投げせず、一緒に楽しんで作っていればそのニュアンスは必ず現れ、地域の人たち愛される広報紙になると思いますので審査結果にかかわらずこれからも情熱を持って頑張っていただきたいと思います。 ◇広報紙を審査するにあたって、気づいたこととその心構えについて記します。 私自身、一児の父として日々の生活を送っています。よって、子育て関連の情報や話題には無意識のうちに耳を傾け、興味関心を抱いている自分がいました。私の妻は私以上に、子ども関連イベントの情報をチェックしています。このように、一生活者の視点で広報紙を捉えると、特集や企画内容の興味関心(評価)は「読み手の立場」によって大きく変化してしまうことに気づきました。また、各地域によって読者層に違いがあることや、その地域が抱えている特有の問題が存在することなどを考慮した上で審査する必要があり、特集ページの企画の切り口の評価は難しいものでした。審査するにあたっては、評価に偏りが出ないよう、なるべくフラットな視点を持つことを心がけ、その地域の市民になったつもりで各広報紙を拝見させていただきました。 では、その評価が難しかった特集ページの企画の切り口という観点から、 ①御前崎市の「御前崎の戦争史」の特集が私は今回最も印象に残りました。終戦前・原爆投下前(8月号)というタイミングも適切で、効果的だったと思います。この広報紙を教科書に、戦争体験者である市民のエピソードを家族で共有し、戦争の悲惨さや平和の大切さについて話し合う機会を創出する。そのような特集のコンセプトが伝わりました。 ②伊東市、菊川市の地元の高校生とタイアップした特集では、地元に関連する様々なプロジェクトを遂行し学び成長してゆく高校生のひたむきな姿やプロセスがまとめられており、まさに若い力が地域活性の原動力になり得る可能性を多くの読者に与えたのではないでしょうか。長い時間と労力を傾けている点も評価に値すると思います。 ③沼津市の特集では、これまでになかった沼津の新しい価値を発信しようとする試みで、あえて量感と情緒性のあるテキストで読者を引き込もうとするコンセプトに気概を感じました。写真の選定とレイアウト、特集ページの余白の使い方なども秀逸であると感じました。 また、あるトピックスから具体的な行動へ誘導する巧妙なしかけが施された広報紙もありました。具体的には、トピックスの終わりに、そのトピックスに関連する問い合わせ先が分かりやすく表示されている(藤枝市)、非常時に活用できる必要最低限の情報を1ページに見やすくまとめることで、そのページを切り取って部屋に掲示しておくこともできる(島田市)、などの工夫が見受けられました。このように、読み手に対して興味関心を抱かせるだけでなく、読み手の意識を変え具体的な行動へと誘うことも広報紙に求められていることなのではないでしょうか。 最後に、広報紙は各号ごと変化に富む情報をコンスタントに読み手に提供することも重要な役割だと思います。その点で特に富士宮市と静岡市は優れていました。この審査会では各自治体で選出された代表号が審査対象となります。よって、特別号(代表号)を編集するために、特別に力を入れることも1つの戦略かもしれません。しかし、「特集企画の年間計画に工夫が凝らされているかどうか」という視点や、「各号の情報量にムラがないかどうか」という視点も、広報紙を正当に評価する上で必要なのではないかと感じました。 |