県広報コンクールの開催
〈審査委員〉 読売新聞 静岡支局長 小川 翼
静岡デザイン専門学校 教諭 本野 智美
静岡県広報業務アドバイザー(広報技術) 平野 雅彦
◇どの町の広報紙も、一昔前とは比べものにならないほどレベルアップしていて感心しました。新聞記者として現場を駆け回り、あちこちの自治体の広報紙を読ませてもらっていたのは、もう20年ほど前ですが、隔世の感と言っても言い過ぎではありません。特に素晴らしいと感じたのはフロント面。写真にこだわりが見られた作品がそろっていました。新聞でも一面は「顔」です。手に取ってもらえるか、読者をぐっと引き込めるかは、フロント面の出来映えで大きく左右されます。魅力的な写真を大胆に載せたうえ、何の写真かが分かる簡潔な見出しや説明記事を添えている作品もあったほか、その号の特集記事や注目記事の見出しを載せてインデックス効果を持たせた作品もありました。函南町や長泉町、川根本町は町の公式LINEやホームページ、広報紙のスマホへの配信申し込みにつなげるQRコードを載せていました。これも嬉しいサービスです。すべての広報紙に広がるといいと思いました。 吉田町の広報よしだは、町が力を注ぐ教育の特集で、内容、ボリューム、レイアウトのすべてが優れていました。フロント面は「ICTを活用して自ら学ぶ力を子どもたちに」という見出しで、パソコンに向かう児童をアップで掲載しました。集中し、かつ楽しそうに学ぶ児童の表情をしっかり捉えた写真は秀逸で、背後に別の児童らが写っている構図的にも、無駄な余白のない素晴らしい1枚です。特集の意図が明確に伝わりました。内容を見ても、写真や図を効果的に使い、全体的に優しい色合いで読みやすい。子ども、教職員、保護者らの「声」がたっぷりと盛り込まれており、礼賛ばかりではなく「懸念・注文」も取り上げたことで、住民みんなで町の教育のあり方を考えていこうというメッセージが伝わったと思います。 長泉町の広報ながいずみは、「子育てがしやすい」と評判の町らしく、フロント面や特集のデザイン、内容がとてもおしゃれでした。終了した催しの「報告」より、これからのイベントの「お知らせ」が多いのも、若い世代には歓迎されそうです。「新しい広報紙」だと感じました。 ほかの町の広報紙もフルカラーで製作されていたり、トピックごとに見出しの色を変えたりする工夫がみられ、総じて読みやすかったと思います。 1点だけ気になったのは、横書きのページが目立つのに、大半の広報紙が右綴じのままということです。左綴じへの刷新を検討してはどうかと思いました。 ◇デジタル化が進む中でコロナ禍となり、拍車をかけて様々な分野で非対面のオンライン生活が本格的に始まりました。時を同じくしてSDGsも注目され、資源の無駄遣いとしてそれまで印刷していた冊子なども急速にデジタル化しました。 紙媒体はなくなるのか、ここ数年そんな課題と向き合ってきました。なくせるならなくした方がゴミは出ません。では、なくした先にあるものは何でしょうか。 2025年は風の時代と言われ、さまざまな価値基準が変化すると言われています。目に見えないものや形のないもの、伝達や教育などが重要視される時代とも言われています。残すものと残さないものの精査。そんなことを考えながら審査をいたしました。なくしてはいけない人と人との関係性。その答えが広報紙に表れている気がします。ほどよいバランス。良い課題解決の糸口をいただきました。 審査におきましては、企画から取材、撮影にいたるまで、ご苦労も多いであろう広報紙制作に尊敬の念を込めながら、じっくりと拝見させていただきました。 審査を通し、有意義な時間を過ごせた事に感謝いたします。ありがとうございました。 ◇それぞれの町が、特徴を出しており甲乙付けがたい。町として顔の見える関係づくりの手段として広報紙が生きているのだろう。少ない人数でこれだけのクオリティを担保しているだけでも高く評価したいところだ。 その上で、気になる点もある。 たとえば、新しいことを始めた町では、メリットばかりを強調した記事に仕上がっている点が気になった。デメリットもきちんと記事にすることで、そこを町としてどのように受け止め、乗り越えていくかというメッセージが欲しい。広報が広告と圧倒的に違う点はそこである。今後の取材と紙面づくり期待したい。 |