県広報コンクールの開催
〈審査委員〉
毎日新聞社 静岡支局長 銅崎 順子
全日本写真連盟 静岡県本部委員長 中村 明弘
(有)アドクック 代表取締役
静岡県広報業務アドバイザー(デザイン) 前田ミネオ ◇東京五輪パラリンピックが開催されたこともあり、聖火リレーや県内で開催された自転車競技などの組み写真が多く見受けられました。コロナ禍の開催で、多くの人が実際に目にすることができなかったので、貴重な記録となったと思います。 その中で伊豆市の「広報伊豆」は、2017年1月から撮りためた市民らが手書きのカウントダウンパネルを持った写真は、企画を形にした良い組み写真です。JR東京駅前などにあったデジタル形式のカウントダウンパネルより、手書きの温かみから人々が心待ちにしている様子がよく伝わり、ほっこりしました。 地域の活動や誇りを紹介した組み写真も力作が多くそろいました。広報紙の大きさでは見開きにしても大きなスペースは取れません。小さな写真ばかりだとインパクトがなく、写真を大きくすると記事スペースが狭くなり、基本情報も入れられないというジレンマに苦しんだであろうとうかがえました。大きな写真はインパクトがあるので、1枚は大きく使ってそのほかは小さくするなどの思い切りも大事ですし、掲載点数を減らすことも検討してみてはいかがでしょうか。 富士市の「広報ふじ」の特集「田子の浦しらす」は、8500枚も撮影した中からの力作でした。漁の撮影は朝早くから船に乗せてもらい、それだけでも大変だったことでしょう。富士市らしく富士山を入れた写真や、釜揚げをおいしそうに食べる市民らバリエーションも豊富な写真を見開きにうまく配置していました。 全体を見て、各地の撮影者が楽しんで撮影していることが伝わり、楽しい時間でした。今後も郷土愛あふれる写真を撮って、発表してください。 ◇「コロナ」で、大きなイベントが中止となり、祭りのようなエネルギー溢れる行事や事業がなかった一年でしたが、今回の「組み写真」に応募された作品には、それに十分変わり得るだけの「熱量」を感じました。 しかし、取材し、写真に撮り、紙面として構成していく作業は、「祭り」のようにはうまく進まなかったのではないでしょうか。 企画から取材を通し、「何を伝えたいのか」が、明確でないと、写真撮影も力の入らないものになりがちです。応募作品の中では、その点に「差」が生まれたと言えるかもしれません。意図があって、内容があってのレイアウトです。「素敵なレイアウト」で伝えたいことがいっそう明確になり、読んでくれる方の心に何かを伝えることができる…。そういう観点から、構成段階で徹底的に見直してみることも大切ではないでしょうか。 ◇時節柄、「オリンピックの聖火ランナー」をテーマにしたところがたくさんありました。それなりの盛り上がりはあったものの、その盛り上がりも地域それぞれに違っていたのではないでしょうか。公道での撮影は難しかったと思いますが、その地域らしい背景をよく考えた写真もたくさんありました。 ◇いわゆる写真の「切り抜き」の技術が特殊なものではなくなってきました。今回その「切り抜き」を使った作品もかなりありました。どこへも使える、というわけにもいかないでしょうが、上手に使えば大変効果的な紙面ができます。研究課題の一つとなりましょう。 ◇今や、「全員マスク」の時代。しかし、マスクをした人物の表情をとらえることはとても大変だったと思います。時代を反映しているとはいえ、あまりいい写真にはなりません。一日も早く、マスクなんかしていない、表情豊かな人物が撮れて、紙面を楽しく飾れるようになるといいですね。 ◇広報誌における組み写真は、特集記事をよりリアルに伝えるための手法です。1枚写真で伝え切れない情報を複数の写真を使って視覚化することだと思います。ただ写真を並べるだけでは、そこにドラマが生まれません。読者がいかにもその場にいるような臨場感を体験してもらうことで、編集者とのコミュニケーションが生まれます。 今回のコンクールでは、そのようなドラマチックな組み写真に注目してみました。1枚1枚の写真が優れていても、生かされなければただの写真として見過ごされてしまいます。複数枚の写真の中からどんな写真を選ぶかメインに取り上げるか、撮影者と編集者の裁量にかかってきます。 最近ではスマホ写真の精度も上がり一眼レフと変わらない仕上がりを見せています。撮影技術も大切ですが写真の持つ魅力を効果的に配置して写真同士の関係性を保つことが組み写真では大切です。採点基準は、ストーリー性のほか同じような写真が並んでいないか、記事との関連性は的確か、紙面の中でバラツキは無いかを基準に採点しました。 高得点を入れた広報誌の中に、読者が知り得ない情報を順序立てて紹介するプロジェクトの記事が目にとまりました。切り抜き写真と角版写真を織り交ぜて分かりやすく編集された広報誌でした。そのように、単なる報告書的な記事ではなく読者が得する内容や取り組みを特集記事として紹介するのも良いでしょう。 また、大切なのはキャッチフレーズや記事のレイアウトです。フォントの大きさや書体選びにも気を配りたい。目立たせたいために無闇に装飾して写真の有効性を損なわないよう注意してください。 紙面全体を見渡して写真が生かされているか、窮屈になっていないか、読みやすく印象に残るレイアウトかを検証しながら丁寧に編集していただきたいと思います。 |