県広報コンクールの開催
〈審査委員〉
中日新聞社 静岡総局長 榎本 哲也
静岡大学人文社会科学部 客員教授
静岡県広報業務アドバイザー(広報技術) 平野 雅彦 静岡デザイン専門学校 常勤講師
本野さとみデザイン室 代表 本野 智美 ◇市民の思いに寄り添おうとする広報、市民が健全な議論の題材にできる広報、切り抜いて保存したくなる広報。市民のどんなニーズに応えようか、という明確な編集意志がある広報が出そろったという印象を受けました。 昨年は町広報の審査をさせていただきました。市は町に比べ人口が多いので、町以上に、役所と市民との距離がどれだけ近いか、職員がいかに市民と寄り添っているかが、広報に表れると思います。審査では、その点を大事なポイントの一つと考えました。そこで注目したのが、三島市の企画「つなげる〜まつりへの想い」でした。アイデアの良さに加え、これだけ多くの祭りの写真を撮影、保管しているのは、日ごろから市民との接点を大切にしていなければ実現できない企画。コロナで祭りが開催できず、伝統継承を危ぶむ市民の声が職員の耳に届いていたからこそ、発案できた企画だと思います。 市民の意見が分かれそうなテーマを、あえて広報で取り上げる市がみられたのも心強いと思いました。富士宮市の「イクジト、シゴト。」がそのひとつ。女性活躍、ジェンダー平等は、高齢者を中心に否定的な考えの人が少なからずいます。そうしたテーマを大切な問題だと考えてあえて取り上げるのは、行政としてとても大切な姿勢だと思います。富士市の「LGBT」も、人によっては他人事と考えがちなテーマを、あえて表紙では前面に出さず、「好き、色いろ」という穏やかなコピーを飾ることで、市民を自然にこのテーマへといざなう工夫をしていると思います。 なかなか市民に関心を持ってもらうのが難しい行政テーマに目を向けてもらうのも、広報の大切な役割だと思います。その点で工夫を凝らしていたのが菊川市でした。市がリニューアルした防災ハザードマップをもっと活用してもらおうと、「使わなければ……」という目を引くコピーを発案し、家族での話し合いという読みやすい文章を工夫していました。 表紙や巻頭特集に力を入れているのはどの市も共通していますが、最終ページ(裏表紙)にもそれぞれの市に工夫がみられました。沼津市は「ぬまづの宝百選めぐり」という連載で地域の歴史を興味深く紹介していますし、三島市の「楽寿園『小浜池』が満水」は、ニュース記事であり、きれいな写真。藤枝市の「市町対抗駅伝」藤枝チームのメンバー紹介も、市民の元気な顔を目立つページで紹介するいい工夫です。 五輪・パラリンピックは、どの市にとっても一大事業で、それを達成した思いが伝わってくる広報が多くありました。中でも、卓球の水谷、伊藤両選手の幼い頃の写真をちりばめた磐田市の表紙は、保管したいと思う市民も多かったでしょう。 日刊新聞を作っている私どもにとっても、学ばせていただくことがたくさんありました。今回の審査をさせていただき、改めて感謝申し上げます。
◇毎年様々なテーマが広報紙で取り上げられます。 そんな中、今年一番関心を集めていたテーマは「ジェンダー」だったのではないでしょうか。“男女共同参画”はもちろんですが、いくつかの広報紙で“LGBTQ”という性的少数派に関するテーマを真正面から取り上げていました。 今まで隠れるように息をひそめて生きてきた人たちに、広報紙の中からみんなが笑顔で「それも個性」「共に歩こう」と呼びかける…とうとうやってきました、そんな時代が。 これこそが広報紙にしか出来ないこと、広報紙の使命なのでは、と感じます。多種多様な人々が暮らす場所で、問題提起できるツールとしての広報紙の存在意義。 私たち一人一人の意識が変われば、誰かが生きやすくなるかもしれない、誰かが救われるかもしれない。夢、ではなく現実に。 ジェンダー問題は「SDGs」から派生したテーマの一つでもありますが、私たちが社会生活を続けて行くには人と人のつながりが必要不可欠です。様々な考えを持つ地域住民が広報紙を通して社会の課題を知り、考え、お互いに関わり合いながら解決していく。素晴らしいの一言につきます。 広報紙制作に携わるみなさまにおかれましては、日々ご苦労も多いかと思いますが、今年も皆様の活動の価値を再確認いたしました。 審査におきましては、静岡各地の特性を比べながら楽しく拝見させていただきました。審査を通し、有意義な時間を過ごせた事に感謝いたします。ありがとうございました。 |